finals Fujimoto Mikio vs. Yamane Yoshiyuki

By Shimizu Naoki


リアニ、山根
参加者256人によるスイスドロー8回戦+決勝シングルエルミネーション3回戦。
『グランプリ代々木』とも言われた東京都選手権もようやくその終焉の時を迎える。

長きスイスラウンドを勝ち上がり、決勝まで駒を進めたのは「Scryb&Force」藤本幹雄、「青黒赤リアニメート・ドラゴンストーム」山根由幸。
勝った方が2006年度の東京都チャンピオン、256人の頂点。
双方に重圧がのしかかる。
そんな中会場の時間を気にする主催者に対し、「下手すれば10分で終わる」というコメントをくれた藤本。果たして本当にそれほど簡単に決着はついてしまうのだろうか。

互いのデッキレシピを交換すると、明らかに藤本の表情が曇る。
「キツい。」
それもそのはず、山根のデッキには《稲妻の斧/Lightning Axe(TSP)》が4枚入っており、《粘体マンタ/Plaxmanta(DIS)》を採用していない藤本はこれへの対処が非常に難しいからだ。万が一ここから《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》でもリアニメートされようものならゲームが簡単に終わる。
藤本は何かを決意したようだ。
一方の山根は既に同じタイプのデッキと対戦したこともあり、レシピの確認はすんなり終える。 

堀哲也の操るScryb&Forceを準決勝で破った山根がやや有利という下馬評、果たして勝利の女神はどちらに微笑むか。
1/256を決める最後の戦いが、今始まる。



Game 1
2個のダイスで12を出した藤本が先攻。

ところで、クロックパーミッションのデッキがよく言われることは「噛み合えば強いが噛み合わなければ弱い」ということだ。つまり、初手によって大きく強さを変える。Scryb&Forceの場合、1ターン目にマナクリーチャーを出せるか出せないかによって大きくゲーム展開が変わるということである。
結果的に、マリガン率は高くなる。藤本は決勝戦までに通算17回のマリガンを経験してきたそうである。自分の不運を皮肉っているようにも聞こえるが、そうではない。17回ものマリガンをしながら今彼は決勝戦の席に座っている。そう、彼のマリガン判断はほぼ全て正しく、またデッキはそれに答えたのだ。

この決勝戦の1ゲーム目、7枚の手札を見ると藤本は即マリガンを選択した。続く6枚の手札もマリガン 。「デッキが分かっている以上こんな初手(1ターン目《極楽鳥/Birds of Paradise(8ED)》《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》がない手札)はキープできない。」

Scryb&Force、藤本

ダブルマリガン後の内容は《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven(TSB)》《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》《幽体の魔力/Spectral Force(TSP)》《幽体の魔力/Spectral Force(TSP)》《獣群の呼び声/Call of the Herd(TSB)》である。一見キープしても良いように思える。もしあともう1枚土地を引くことが出来れば2ターン目に《獣群の呼び声/Call of the Herd(TSB)》が出来るし、その後は《密林の猿人/Kird Ape(9ED)》となった《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》によって攻撃が継続できる。だが《幽体の魔力/Spectral Force(TSP)》2枚が完全に無駄だと判断した藤本。

トリプルマリガン。
そしてこれが今大会通算20回目のマリガン。

4枚になってしまった手札の内容は・・・
《獣群の呼び声/Call of the Herd(TSB)》《獣群の呼び声/Call of the Herd(TSB)》《森/Forest(TSP)》《心霊破/Psionic Blast(TSB)》
さっきより悪くなっている。これもダメ。

「クァドラプルマリガン」だ。聞いたことがある人も少ないくらい、このようなケースは稀だ。

結局3枚になってしまった藤本の手札。「クインタプルマリガン」は流石に許せないか、遂にキープを宣言する。

長い長い藤本のマリガンチェックの後、山根はキープを静かに宣言する。

そして第一ターン。
「どうぞ」

「やっぱり」という山根。ギャラリーも苦笑いだ。
あまりの光景に初手にあった《睡蓮の花/Lotus Bloom(TSP)》を待機することを忘れてしまう山根。続く2ターン目にも藤本は何もしない。山根は忘れていた《睡蓮の花/Lotus Bloom(TSP)》をしっかりと待機。
続くターンも何もない藤本、山根は《強迫的な研究/Compulsive Research(RAV)》で《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》と《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath(TSB)》を墓地に泳がせる。
遂に《繁殖池/Breeding Pool(DIS)》から《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》を呼び出した藤本であったが、続くターンの山根の《ゾンビ化/Zombify(8ED)》による《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》一本釣りによって早々とカードを片付けた。


藤本 0-1 山根


藤本は準決勝と同様に《獣群の呼び声/Call of the Herd(TSB)》《幽体の魔力/Spectral Force(TSP)》をアウトし、《巨大ヒヨケムシ/Giant Solifuge(GPT)》《ザルファーの魔道士、テフェリー/Teferi, Mage of Zhalfir(TSP)》を投入。一方の山根は《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath(TSB)》《絶望の天使/Angel of Despair(GPT)》《ゾンビ化/Zombify(8ED)》などのリアニメート部分を一部アウトし《ドラゴンの嵐/Dragonstorm(TSB)》作戦に出る。

Game 2
今度こそまともな初手が来るのか。注目のマリガンチェックだが・・・。
藤本、初手はやはりマリガン。続くセカンドハンドも納得いかず、マリガン。
先ほどに比べれば多いとすら思わせる5枚になった手札もノーランドではキープできない。トリプルマリガンを宣言する。勝利を確信したのか、うっすらと笑みすら浮かべる山根。
今回は流石に4枚になった手札はキープできるものだったようだ。
山根も1ゲーム目と同様にキープを宣言。
藤本が土地を置こうとすると・・・

山根から《宝石の洞窟/Gemstone Caverns(TSP)》が飛び出す!!

焦りの色を隠せない藤本。何しろこれによって先攻後攻が入れ替わってしまうからだ。
インビテーショナルカードの思わぬ出現によりギャラリーも沸く。

先手のはずが、何故か山根より後に《森/Forest(TSP)》を置いた藤本。《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》を召喚してターンを返す。
「これ除去ったら勝てるんじゃね?」と山根は《稲妻の斧/Lightning Axe(TSP)》を見ながら呟くが、捨てるものが見当たらないようで《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》は生き残る。続くターン、土地は置けないものの藤本は《極楽鳥/Birds of Paradise(8ED)》でマナを伸ばし、なんとかゲームを作る。山根は《イゼットの印鑑/Izzet Signet(GPT)》によってマナを伸ばしつつ《強迫的な研究/Compulsive Research(RAV)》によって手札を整える。

藤本はさらに《極楽鳥/Birds of Paradise(8ED)》を呼び、山根の2回目の《強迫的な研究/Compulsive Research(RAV)》を《差し戻し/Remand(RAV)》、ドローを進める。続いて《ヤヴィマヤのドライアド/Yavimaya Dryad(TSP)》をプレイ。これは山根の《差し戻し/Remand(RAV)》に遭うが《差し戻し/Remand(RAV)》し返すことでこれを強引に受け容れさせる。
インビテーショナルカード

先ほど《差し戻し/Remand(RAV)》されて手札に返ってきた《強迫的な研究/Compulsive Research(RAV)》をプレイした山根は、「こんなんいらね」とばかりに《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath(TSB)》と《差し戻し/Remand(RAV)》を捨てる。
ようやく場の体制が整ってきた藤本、《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(9ED)》と《ヤヴィマヤのドライアド/Yavimaya Dryad(TSP)》で攻撃を加える。さらにタップアウトしながら《オーランのバイパー/Ohran Viper(CSP)》を召喚。これはまさかの大逆転劇か・・・!?

「え、やばいんじゃないの?」と流石に焦り始めたか山根。

次のドロー。

「あ、勝った」 

「え?」というギャラリー。呆気に取られているうちに・・・
《炎の儀式/Rite of Flame(CSP)》《煮えたぎる歌/Seething Song(9ED)》《煮えたぎる歌/Seething Song(9ED)》から大量の赤マナを生み、《稲妻の斧/Lightning Axe(TSP)》を《オーランのバイパー/Ohran Viper(CSP)》に。

そして残った土地から

怒涛の瞬殺劇
《ドラゴンの嵐/Dragonstorm(TSB)》!

突如現れる4体の赤竜《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》、そしてそれに追随して《火想者ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, the Firemind(GPT)》。

「あなたに、20点。」

まさにあっという間の出来事で、山根が東京都選手権チャンピオンの座を勝ち取った。


藤本 0-2 山根

今回、藤本は都合7回のマリガンを決勝戦だけで行った。これは確かに不運かもしれないが、「まずまずの手札では勝てない」という藤本の決意から行われた、「アグレッシブなマリガン」だ。
マリガン判断はマジックというゲームの中でも最も難しい部分。「マリガンは好きじゃない」という人は読者の中にも多いはずだろう。だが藤本の行ったように、不利なマッチアップではこうした「賭け」も有効なのだ。今までマリガンに対して少し逃げ腰になってしまっていた人は、是非こうした姿勢をとることも検討してみて欲しいと思う。

一方山根は相手のマリガンという幸運に後押しされながら、デッキのパワーを申し分なく発揮させた会心の勝利だった。デッキレシピが公開されてしまう決勝トーナメントではその効果が薄れてしまうもののやはり効果があるアグレッシブサイドボーディングの強さも見事見せ付けることができた。今回の優勝はまさに「デッキの勝利」と言えるのではないだろうか。

何はともあれ、おめでとう、山根良幸!

Result: 山根良幸 is the champion of the Tokyo Champs 2006!!


3代目東京都チャンプ、山根良幸